6.27.2013

37_約束された場所で_01

.. やがて薬物のイニシエーションが始まりました。僕も当然受けました。受けた人たちはLSDだろうと言ってました。幻覚は見ましたが、解脱に至る手段としては、疑問を持たざるを得ませんでした
.. ある程度確かな情報として伝わってきても、この頃はタントラ・ヴァジラヤーナの教養が入ってきていまして、その結果信者の中で善と悪の観念が崩壊させられていましたから、結局「これは救済なんだよね」というところで話が終わってしまっただろうと思います。要は「救済の前には何でもあり」という教義でしたから。
.. そもそもは解脱のために修行していたはずなのに、それがもう今では単なる罰則の一部みたいなかたちになってしまっていました。
.. 「こっちは真剣に頑張ろうと思ってやっているのに、なんでこんなことをするんですか!」と強く抗議しました。それでまあそのときはなんとか落ち着いて、独房に戻ることができたんですが、でもこのことがあって私は完全に切れてしまいました。「さあ真面目にやろう!」と努力しているときに、これはないだろうと。
.. どうなっているか独房を見回りにきていたのを目にしました。薬で意識が飛んでいたのですが、そのことははっきりと覚えています。彼らは薬物の反応の確認に来ていたわけです。
.. オウムはいったいどうしてしまったんだろうと愕然としてしまいました。
.. オウムが良い悪いはともかく、現世には満足できないという点は自分の中ではっきりしていますから。

増谷 始(元信者) 「約束された場所で」村上春樹

ghostwriter