8.13.2013

51_目からウロコの文化人類学入門_02

第11章 不潔、清潔とは何か→1. 汚いとは何か→「抜け毛は危険物」

身体は、一人の人としての自分の存在、アイデンティティを確認するのに不可欠だ。脳や心臓といった内臓があって初めて一つの生命体として存在しうるのだし、さらに頭、肩、胸、腹、背中、足などが、つまり身体の外縁が、物理的に周囲の空間や、他人の身体から画された自分の身体を明示し、自分という存在を明確にしている。
ところで、身体の一部であるときの頭皮や髪の毛は確かに自分の一部であるが、では剥がれ落ちたフケや、抜け落ちた髪の毛は、自分の一部なのだろうか。こすればとれる垢、身体の表面に付いている汗、ウンチ、さらには一文で身体とつながっている剥がれかかったフケやカサブタは、どうだろうか?自分があちこちに散在するということになってしまう。
統合失調症(精神分裂病)の症状に、自分の身体の境界が溶け出し、どこまでが自分なのかわからなくなる、というものがあるという。自分の身体がどこまでかわからなくなるとは、いったいどこまでが自分なのか、すなわち自分とは何者なのかがわからなくなるということであり、きわめて恐ろしい状況となる。
こう考えると、身体表面にあるフケ、髪の毛、ウンチなどは、自分の身体の内側、外側の境界を曖昧にする、きわめて危険な存在ということになる。こうした曖昧なものを曖昧な場所にそのままにしておくわけにはいかないから、排除する必要がある。それゆえに身体の中から外へ出てくるものはことごとく汚いとされる。さらには、もっとも曖昧な状態である身体の表面に付いている時が一番汚い、といされるというわけである。

2003年初版

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